December 28, 2004
くるり / ワールドエンズ・スーパーノヴァ
みんなが寝静まったころ、仕事を終えた俺はバイクにまたがり、セルを回してバイクのエンジンをかける。寒さのせいか、さんざん乗り回したツケが回ってきたのか、どうもセルの回りが弱い。仕事に疲れきった俺のように頼りないセルの音。あちゃあ。バッテリーあがるかもしんねえな、こいつ。
潔く諦めてそのままバイクに跨り、一服しながらエンジンをかかる事を祈りながらヘッドフォンを付ける。この寒さもまたいいもんだろ、とか自分に言い聞かせて。
いつだって僕らはだれにも邪魔されず
本当のあなたを本当の言葉を
知りたいんです 迷っているふりして
僕は風になる すぐに歩き出せる
次の街ならもう名前を失った
僕らの事も忘れたふりして
---思えば、セル付きのバイクに乗り続けるのはこれが初めてなんだよな。今までずっとキックでエンジンをかけるバイクに跨ってきた。ガキのころに乗ってたスクーターでさえ、時代遅れのキックスターターだった。そのころ、自分の中ではモトリクルーのキックスタートマイハートとかいう曲がなりっぱなしで、「これはかっこいいものなんだ」と自分に言い聞かせていたっけ。友人の最新のスクーターにバカにされながらも、「これがいいんだよ」なんつってかかりにくいエンジンをひたすらキックしてた。今と違って体力もあったしな。
一時期乗っていたSRというバイクはそれはもうワガママなバイクで、春先や、ちょっとでも機嫌の悪い日なんかはしっかりデコンプって作業をしてやって、チョークをひいて、気合をいれてキックしなきゃウンともスンともいわなかった。その一連の儀式めいた作業も好きだったし、ワガママだけどしっかりと俺の挙動に答えてくれるエンジンと車体、スパルタンな外見、全部が好きだった。最後は動かなくなって泣く泣く手放したけれど。
DO BE DO BE DA DA DO
スタンバイしたらみんな
ミュージックフリークス
キックスタートマイハート。やっぱキックでエンジンかけてえな、また。冬の寒い夜、2時間ぐらいキックと格闘したこともあったけど、それでもやっぱりあの儀式を経てバイクに跨りたい。汗だくになって。棒の様になった足をブレーキペダルにおいて。たぶん、そのキックしている時間も愛しかった。あの日も、エンジンがかからなくてキックしていた。もう別れてしまった彼女の横で。汗だくになりながら。
1.2.3でバックビート
ピッチシフトボーイ全部もってって
ラフラフ&ダンスミュージック
僕らはいつも笑って汗まみれ
どこまでもゆける
<----
事情があって2週間ほど家を空けたことがあった。事情?事情なんてもんじゃなかった。一緒に住んでた彼女との、5時間に渡る痴話喧嘩の後の三くだり半。
「荷物もって実家帰るからしばらく家空けて」
そのまま近くの公園まで飛び出して途方に暮れる。そんでもってバカ笑いしながら友達の家に電話。
「はは。俺、追い出されてもうたし、しばらく泊めてやー」
感傷なんてなかった。ただ一方的に俺が悪かったから。「やり直そう」の一言も発せなかった。俺の譲れないところが原因だった。蓄積。それまで騙し騙し楽しくやってきたはずだった。その部分には二人とも触れずに。そ。音楽の話なんて一切しなかった。スタジオもライブも曲作りも見えないとこでやってた。彼女は彼女の思う幸せを望んでいたというのに。それをお互い騙しあって、ああ、なんて甘くて素晴らしい日々、なんて。バカやな。そんな蓄積のツケ、かもな。
絶望の果てに希望を見つけたろう
同じ望みならここでかなえよう
僕はここにいる 心は消さない
2週間キッチリ。出て行った時間に家に戻ってやった。まあ儀式みたいなもんだ。もちろん、アパートの隅にいつも停めてあった彼女のクルマはもうそこになかった。あたりまえか。そういう約束だものな。いつものように階段を上って、あれ?鍵閉めていかんかったのか?まあ、盗られるような荷物なんて俺は持ってないからええかなんつってドアを開けたら出て行ったはずの彼女。荷物が運ばれてがらんとした部屋にぽつねんと彼女。さすがに顔見合わせて笑う。バカみたいに。二人で。あの時と同じように。
「きっちり2週間後の時間に帰って来るなんてテツヤらしいね」
「俺が時間に遅れたことなんてなかったやろ?つか、なんでおんねん」
「あー。まあゆっくり話しよっと思って。それもいいしょ?」
「ま、一人でぽつねんと座って感傷にでもひたりたかったんやけど。ええよええよ。いくらでも付き合うわ」
「で、なんの話さ?今更、”あれはなかったことに”なんてことはないやろ?」
「あはは。さすがにそれはねー。うん。ないない。」
「うん、まあ終わりの方とか殺伐としてたじゃん?笑うところも一個もなくて。リプレイ?やー、ちがうねー」
「リテイクしょ。や、ラストシーンぐらいキレーにオチつけろよって感じの」
「うんうん。それそれ。というか笑ってバイバイできればなとか思って」
「なら俺も付き合うわ。ここしばらく笑えてねえしな」
そうやって3時間ばかし、どうでもいい話をして笑った。あそこの店のあれがまずかっただの、夜中までどうでもいいこと討論しててそのまま会社にいったことだの、俺の働いてたコンビニで若夫婦って設定で接客して遊んでたことだの思い出の総ざらい。どれだけ幸せだったかの確認作業のような。結局、それは何も生産しないし、なんにも精算できないのだけど、そんなことが二人に必要だった。だからそうした。そうやって笑って暮らしてきたことを思い出しながら。
これからの話なんて、ない。昔に話してたことばかり。実験も発見も、ない。
「あ、やべえ。今日、バイク取りにいかなきゃなんねえんだわ」
「あー。じゃ帰り道だから送っていくよ。バイクも見たいし」
「じゃ、俺はいつものナビ役で」「いつもの、ね」
そうやって、いつかのいつもの様に、彼女の隣に乗って。
そうやって、何度も通ったあの道を、いつかのいつものように
そうやって、何度も送り迎えした道を、今度はひとりで帰るために。
1.2.3でバックビート
スウィングして粘るベースライン
アイラブユー皆思う
これだけがメロディー奏でだす
ラフラフ&ダンスミュージック
僕らいつでもべそかいてばかり
朝がこないまま
目的のバイク屋について、お金を払って(オンボロの安バイクだったからキャッシュで買えたんだよな確か)、自分の相棒になったバイクを連れて、近くの駐車場まで彼女と並んで歩いた。なんかもう少しだけでもいいから時間が欲しかった、なんて思ったのはまた後の話。
「じゃ、ま、エンジンかかったら車乗って帰ればええからさ」
「ちょうど、あたしん家とテツヤん家の真ん中だしね。それで」
最初のキック。まったくかかる気配すらない。まあこなれるまで仕方ないやろ、だいたいな、お前にキスするまで半年かかったやろ、似たようなもんだわとか言って笑いながら言った。笑う彼女を背中に2回目のキック。
あれ?かかんねえなあ。つか、暑くね?なんか飲み物買ってきてや。まだ少し時間あるやろ?3回目のキック。
自販機まで走る彼女を尻目に4回目。5回目。一休みしてまたキック。
ジュースの缶を2つ持って、オデコ全開で駆けてくる彼女を確認してまたキック。そうだ。あれだよ。何回目かに彼女と遊んだ時に、やっぱり俺はそうやって駆けてくる彼女を可愛いと思った。それが多分始まりだったんだな。いで、キック。まだエンジンはかからない。
「なあ?もう少し時間あればよかったんかな?」
「時間があったからダメになったんじゃないん?」
苦笑いしながら、諦めたように、キックする。だよな。
いつまでもこのままでいい それは嘘 間違ってる
重なる夢 重ねる嘘 重なる愛 重なるリズム
うん。そうだわ。うん。も、限界やな。知ってたよ。このまま時間引き延ばしてもなんにも変わんないこと。今と同じようにな。そ。エンジンは”かからない”んじゃなくて”かけなかった”んだわ。時間かけたらなんか奇跡みたいなことが起こるんじゃないかとか思ってた。タイムリミット。文字通り。
O BE DO BE DA DA DO
スタンバイしたらみんな
ミュージックフリークス
ジュースを飲み干して、今度は本当に、エンジンをかけるためにキック。勢いよく回るエンジンの音をバックに彼女はクルマに乗り込む。いつも隣に乗ってた俺をここに残して。走り出した彼女のクルマの後をヨタヨタと走り出す。別れ道の信号待ちで横に並んで
「ありがとな」「元気でやってて、ね?」
1,2,3でバックビート
ピッチシルトボーイ全部もってって
ラフラフ&ダンスミュージック
僕らはいつも笑って汗まみれ
どこまでもゆける
バイクに乗った俺は右へ。クルマに乗った彼女は左へ。ふたり、おおきく手を振って。振り向かずに。そのまま。
彼女はそれから結婚をして、今は誰かの隣に乗ってるという。俺は、はは、まあ、相変わらずコイツに乗ってるよ。そうやって自虐的に笑いながらセルを回す。観念した様にかかるエンジン。やっと帰れる、な。
1.2.3でチルアウト 夜を越え僕ら旅に出る
ドゥルスタンタンスパンパン
僕ビートマシン
ライブステージは世界の何処だって
ラフラフ&ダンスミュージック 僕らいつも考えて忘れて
どこまでもゆける
俺は右へ。彼女は左へ。それぞれ別の道を。たぶん、今も。いで、これから先も。どこまでもずっと。
(くるり / THE WORLD IS MINE 2002/03/20)
December 27, 2004
ジョージイ・フェイム/sweet things
「メリー」「お。メリイブー」
「おはよー」「うん。今日もおはよう」
「で、なんでいつもおはようなん?夕方なんに?もしかしてアホのひと?」
「アホやなあ。はじまりはいつも”おはよう”に決まってるやん」
「ちなみに俺のじいさんが決めた」「嘘ばっか言ってると甘いものあげないよ?」
「や、ごめん。撤回します。くれ」「はいはい。じゃ、これあげるね」
「お、アーモンドスカッチ。ありがてえ。たすかるー」「そんなもんで助かるな」
そうやっていつものようにキャンディがやってくる。学校帰りのおんなのこと一緒に、甘いキャンディがやってくる。変化のない毎日のちょっとした報告と、昨日聴いた音楽や見た映画の話、その娘が好きな人の話と一緒に。
「で、どうなんよ?イブやろ?会って想いをぶつけて玉砕しなきゃ!やろ?」
「まあ、ねえ?今日の夜かってデートかもしれんし」
「やー、お前そんなよわよわでどうすんのさ。だいたいな、その彼女がいる、ってのも未確認の話やろ?わかんねって」
「や、ちが。こないだかって女の子とゴハン食べてるの見たって友達が言ってたもん」「だからそれを未確認って言うねん」
「お前な、本人にトドメさされるまではゼロやないんやからさ?聞いとくだけ聞いとけばええやん」
「や、聞いた。本人はいないって言ってた」
「じゃ、ええやん。告白しとけ。チャンスやん」「いや、絶対いるってー。そんな雰囲気やもん」
「雰囲気だけやん。気合であたってけっつの。なんとかなるもんやで?」
「そやね。やらんで終わるよりはやって終わるほうがいいもんね」
「終わらすなよ。ま、でも、ほら、万が一玉砕しても俺んとこくりゃええしな」
「絶対いかない。それぐらいなら一生ひとりでいいもん」
「それぐらいて!」「あはは。それは言いすぎやね」
「や、いいっす。そんぐらいっす」「そそそ。そんぐらい、ねー」
俺の好きなひとたちの、その人たちが大好きなヒトへの思い。それを話しだす嬉しそうな顔は、甘いキャンディにも似て。
「で、そのそんぐらいの人からの質問なんすけど、例のブツは持ってきましたか?こないだ言ってたヤツ」
「うん?プレゼント?」「そそ。いつもお世話になってますーとかの思いを込めて、とかさ」「や、あたしが世話してるで」
「ほいほい。いじゃ俺からそのお世話に感謝っつーことで。これね。落として泣くなよ?」「ありがとー。開けてい?」
「お前な、俺が包んだんやから大事に包装解けよ?って聞いちゃいねー」「あはは。ちゃんと紙とっとくから許して?ね?」
「ね?じゃないっつの。俺をとっとけ。それで許す」「いや、それ、無理」
「ひでえ」「あはは。うん。ありがとねー」「なんもだって。愛だっつのさ」
「クリスマスプレゼントくれよー」とか話すたびに言ってたら、「じゃ、交換でいいよ?ちょうだいねー」って流れになって今に至る。話すひとみんなに言ってる訳だから、なんら特別なことではないのだけど、やっぱり懸命に選んだりしてるし、それを喜んでもらえるのもうれしいし、相手が同じようにしてくれてるとすればそれもうれしい。得てして、好きなヒトってのはそういうものだ。くだらないやりとりのように、奇妙なバランスで成り立ってる。うれしさの等価交換、そういったもので。
くだらないやりとりと、甘いキャンディ。
まいにち。ほぼ毎日繰り返される日常。
特別なことはなくたっていい。ドラマみたいなハプニングも必要ない。ただ目の前のヒトと笑い合う、それだけが大切。それだけが大事。なにも変わらず毎日があわあわと繰り返されること、それだけを願って。
「はい。じゃあたしからコレ」「おー。紙袋ー!」
「そこは感動するとこなん?」「や、もう中身はなんでもええよ。もらったことが嬉しいねん」
「中身はたいしたもんじゃないでがっかりせんでね?」「や、もうね、やっと俺の愛に応えてくれたかと思うと」
「意味わかんないよ?」「はは。ま、お前のラブリーじゃなくてごめんな」
「や、つかお前、今日は会いにいかんの?」「うん?そのためにこっちまで来てるで」
「あ、そか。お前んとこ遠いもんなあ。や、えらいね、かわいいね!」
「今日は一緒にケーキ食べいこうと思って。前、連れてってもらったあそこ」「おお!とうとうやるかー。やっちゃうか!」
「ちゃんと来てくれれば、ね?」「や、来るっしょ?がんばりやな」
けっこう前から「今ね、好きなヒト居るんやって」ってさんざん聞かされてきた。もちろん相談もいっぱいされた。そのたんびに「や、がんばりやな。やってやれないことはないし」とか言い聞かせてきた。誰に対してもおんなじことをいう。やりたいことをやりたいようにやりなや、とも。
その娘が好きなヒト、いつも交わす会話の中では「ラブリー」とか言ってるんだけども、まあなんか話したりしてるうちに好きになってったらしい。俺が聞いてる話から推測するに、ずっと話したい、という想いと、決着着けようとして二度と話せなくなったらどうしよう、という想いがあの娘の中で戦ってるってとこだろう。それはすごいよく分かる心理で、「がんばりやー」と言葉を投げる俺すらもその結果が出ることを怖がっている。いつも。それなら軽く漂ってるほうがいいと逃げてる。そしてそれがいつかバランスを崩すときが来て、安寧を失うことも知ってる。だから、自分が出来ないだけ、大好きなまわりの人たちにはそんなことがないように願ってる。まったく無責任な話だとは思うけれども。
「いで、てっちゃんはどうすんの?今日?」「や、ケーキ食べるよ?でっかいヤツ。わけわけして食べるよ、もちろん」
「え?誰と分けて食べるん?彼女いないんやろ?」「や、明日の俺とあさっての俺と今日の俺で分けて食べる」
「アホだ。クリスマスアホだ」「アホか。パンクスは常にDIYやねん」
「ていうかパンクスやからコレ開けてい?」「パンクスやからダメ」
「ていうかまだ仕事中やろ?終わってからにしなね」
「そやな。まあシゴト終わってからお前の愛に応えることにするわ。ありがとな」
「じゃ、あたし行ってくんね」「うんうん。祈っとく。だからキャンディもいっこくれ」「そこに入ってるから少し我慢しなね」
「おけおけ。じゃ、またな。このシゴト切り上げて俺も帰るし」「うん。またね。いってきまーす」
「な?気合やで?がんばりやな」「うん。いじゃね」
ラッピングの嵐とたまってた仕事を片付けて、バックルームで一服しながらさっきもらった袋を取り出す。あの娘、いまごろ一緒に話してんやろか?好きなヒトのこと話してる嬉しそうな顔よりも、もっともっと嬉しそうな顔しながら。そうだといい。そうであってほしい。次会って話すときはうれしい報告であってほしいな。そんなことを考えながら紙袋に入ったキャンディを取り出す。一緒に入っていたのは奈良美智の画集。見慣れた字で「これ、欲しがってたやつね」って紙が貼ってある。はは。くっだらねえこと憶えてやがんなあと思って、すごく嬉しくなる。すごく幸せだ。
そして、和紙で作られた白い封筒に入った手紙。見慣れた字で「いつもありがとね」と「こないだ買った本、おもしろかったよー」なんて書いてある。いつもどおり。いつもの文字のやりとり。いつも交わす会話とおんなじの。手紙の2枚目を読む。
「冗談じゃなくて、今まで好きなひとって言ってたのはてっちゃんなんです」
「前、ゴハン食べさせてもらったとこで待ってるでね」
はは。ばっかだね。わざわざバランス崩すこともないだろうに。くっだらないやりとり続けたかったんやろ?俺もおんなじだったんだって。ずっとそれが続くこと願ってたんだって。ケガもなく、穴に落ちることもなく、このままでな。だからそう思っても言わなかったんだよ。スペシャルはない。特別なことなんて無くていいってな。そんでもいいと思ってたし、まあなにより好きなヒトとうまくいって欲しかったしな。や、これは本気で。お前さ、よく「よわよわやし」みてーなこと言ってたやん?違うよ。それ、俺だ。そのくせ「がんばりなや」とか言ってたのはズルイよな。俺が出来ないことだもんな。えらかったな。ほいで、ありがとな。
帰り支度を済ませて、足早に向かう。前、一緒にゴハン食べた店へ。
「お前な、何相談してんねん。ばっかやなあ」と頭を叩きに。
や、今日はいつもどおりでなくていいか。特別でもいい。それでも、また明日もやりとりは続くのだから。
「な?俺の愛に応えとけって言ったやん?」とか言ったりしながら、顔を見合わせて、笑い合う。
「キャンディくれよ。いつものアレな。あっまいやつ。いつもの、な?」
いつもの場所でいつものやりとり。店のジュークボックスから流れるジョージィフェイムの歌。スウィートシングス。
いままでと違う、いつもどおり。
キャンディがやってくる。だいすきな彼女と一緒に。
(ジョージィ・フェイム / 20ビート・クラシックス 1995/12/01)
December 15, 2004
『和田アキ子 / 悲しい歌』
とても悲しい歌が出来た
けさ 目を醒ましたときに
あんまり悲しい歌だから
きみに聴かせたくないけど
とても悲しい話がある
きみもたぶん気がついてる
本当に悲しいことだけど
ふたりの愛は終わった
形骸化した蜜月のある夜、きみにひとつの願い事を言った。ふたりは確かに同じ夜に眠り、抱き合って、同じ朝を迎えるのだけど、ぎゅってしてよ、と言ったら確かに抱きしめてくれたのだけど、わかったのはもうそこに心はないという事実その再確認だけだった。
おやすみを言って寝返りを打って、きみが寝息を立て始めるころまでとりあえず泣いた。
あんまり悲しい話なのできみが切り出さずにいる間に気がついてしまったわたしは、小さい決心をしてきみの寝転がるおこたの横にすべりこんで、チューしていい?などと訊いた。きみが拒否しないことは知っていた。いつのまにか、もう何度もそういうふうに心ないキスをしていたからね。
すこしだけ長い時間、くちびるをくっつけるだけのキスをした。
最後にキスしたのがいつでどんなキスだったのか、きみは憶えていないだろう。最後に抱きしめてくれたのが何月何日でわたしが笑っていたのか泣いていたのかきみは憶えていないだろう。
とても悲しい話がある。終わってしまうふたりの愛に、わたしだけがそんなふうに勝手に記念の何かを残して、すこしずつ、顔をそちらに向けたままで後ずさりするように、そおっとそおっと、離れていった。ぼんやりと笑ったままで、すこしずつ。気付かれない程度の速さで、すこしずつ。
こうして ふたり抱き合って
同じ朝を迎えた
ごめんね
ぼくはきみのこと
あんなに愛してたのに
ごめんね
ぼくだけをきみは
こんなに信じてたのに
ごめんね
ぼくはきみのこと
あんなに愛してたのに
ごめんね
だけどいつの日か
みんな忘れるはず
とても悲しい話だけど、そうしてわたしの声は、もう遠ざかったきみに届かなくなった。うん、そうだね。それは、とても悲しい話なのだけど。
(戦争に反対する唯一の手段は。 - ピチカート・ファイヴのうたとことば - -music and words of pizzicato five- 2002/03/31)
November 23, 2004
『スピッツ / スピカ』
とても寝起きが悪い。
寝付きも悪いが、それ以上に寝起きが非常に悪い。
午前六時半に携帯のアラームをセットしているが起きた試しはない。
だけど、これ以上遅れるとまずい七時十五分に、二度寝の誘惑に負けることが稀にあるとはいえ、前日によほどの睡眠不足出なければ必ず起きる手段がある。
二階の西側の、冬は寒く、夏は暑いこの最低な環境のホコリ臭い部屋で確実に目を覚ます手段がある。
方法は至って簡単で、甲高い長い音の後に飛び出すような前奏をボロボロのスピーカーからこだまさせるあの曲をタイマーにセットするだけ。
大抵の人は自分の現状に満足しきってはいない。「最悪ではない」という妥協で生きている。
目覚ましなんてモノをセットする理由はただ一つで、定時までにどこかに行かなければならないのだ。それも、自発的には出きれば避けたい理由で。
休みの日のように昼まで眠りにつき、起きたら起きたでもそもそと食事を食べながらテレビを見て過ごす。そんな生活を誰もが幼稚園から望んでいるに違いない。
出社なり登校した後も、楽しいこともあるとはいえ嫌な事の方が圧倒的に多い。
それは別に、自分に振りかかることでなくても
「陰鬱とした悲惨な文字が並ぶテレビ画面」
「朝のラッシュの中、到着目前での人身事故のアナウンス」
こんな事は山ほどある。
どれも知ったタイミングが悪ければ気分は朝から爽快の真逆だ。
けれど、生きるためには起きない訳にはいかない。
そんな事を布団の中で考え、仕方なく出てくる。
ただ、嫌な事がある事を少しでも覚悟していると、その日だけでも強くいられる。
その上、少しでも希望なんか見出してれば完全には神経なり体をすり減らさなくて済む。
だから、あの曲をスピーカーにセットする。
幸せは途切れながらも 続くのです
そうやって調子の良い奴も、変わり者も、純朴過ぎる人も、残忍な犯罪者も
決して独りじゃ生きていけないから起きる朝が生まれて、その中で僕達は生活する。
(スピッツ / スピカ 1998/07/07)
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wrote by 鯨
August 24, 2004
『ROSA LUXEMBURG / ひなたぼっこ』
その喫茶店は何度か来たことがある店だった。彼女が神戸の土産に買ってきたくれたトリコロールのぴかぴかしたライターと薄荷煙草、アイスコーヒー二つが乗ったテーブルは、小さくて几帳面に真四角で。
彼女は背筋を伸ばしてストローで氷をつついてる。カランカランと氷がまわる。二人にはもう、繰り出され続ける息も出来ぬほど笑える会話もないしだからといって何か思い出話などするのもやだし、でも気まずいこともなくただ他愛ないことをすこし話してすこし笑ってた。
「駅まで送ってくわ」
「ん。じゃあ行こうか」
ターミナルには立派な歩道橋がある。階段の下でなんとなく手をつないだ。のぼりきって真ん中あたりで僕らは立ち止まって、手すりにもたれて煙草を点けると陽はもうビルの陰まで沈んでて、もう秋みたいなひつじ雲が金色で、飛行機雲がにじんでる。僕らの背中の方角に彼女の家、右手の、ずっと向こうのほうには、僕らが通ってた学校。彼女は長袖からちょこっと指をだして、てすりを掴んで下の車やら空やらにぼんやり目をやりながら小さな声でなにか歌ってた。
夏になればすぐ裸足になっーて
君のことも まだ知らないこーろー
君が好きな 丸い帽子 ちょこんとかぶって歌ーってた―♪
僕らは今日、昔みたいに過ごした。昨日電話で約束したんだ。
「明日さー、普通に、昔みたいに買いものとかお茶とか行こうよ」
「昔みたいに?」
「今日のこの話とかしないで、一日だけ、全部忘れて。もう一回だけ」
「いいよ、何にも言わない。約束する」
そして約束を守った僕らは、この歩道橋を降りたらお別れだった。彼女が、たぶん無意識に口ずさんでいるその曲は僕らがよく聴いてた懐かしい曲だった。僕の煙草の煙は細く昇って、すぐ空にまぎれて見えなくなった。
「おー、次の約束、は今日はナシだな」
「ナシだねぇ……あ。」
「うん?」
彼女は笑ってた。いいこと思いついたときの顔だった。
「千円貸してくれる?」
「いいよ」
僕が渡した千円札を歩道橋の手摺りに乗せて、彼女が大事にしている万年筆ではしっこに小さく何か書いてる。「切符買うとき、これ使わせてもらうから」彼女が見せてくれたその千円札のすみっこに、「次の約束」という小さなブルーブラックの文字。
「どっかで服でも買ったとき、お釣りのなかにこれが混じってたら電話して」
「ありえねーよバカ」
「ハハハ。会えたら千円返すよ」
それから、彼女は、手を振った。
僕は笑ってみせるだけで精一杯で、僕のいない街にまぎれて見えなくなっていってしまう彼女を、ただつっ立って見送った。
骨だけになって でもでもいつも好ーき―
山ほどの愛で ごろごろいつも好ーき― …♪
(ROSA LUXEMBURG / STAY BUT EAT MID-1502 1987/07/21)
August 02, 2004
矢野絢子 / てろてろ (The other side _ Flower standing in sound)
僕は、新しい世界を見たかった。
僕は、刺激が欲しかった。
僕は、知りたかった、吸収したかった、胸打たれたかった。
僕は、震えたかった。
この新しい、場所で。
知らない所に行きたいな 一人歩いて
大きな木陰で雨やどりをしたり
風に揺れてどこまでも
青い草の中を歩いて行きたいな
柔らかな土の匂い
初めて、君の、表現するものを見たときの感動は、忘れられなくて、
僕は完全に、君に魅了されていて、絶対、僕はこの人を好きになる、と思った。
恋愛かどうかは、わからないし、それは関係のないことで、
少なくとも、あの頃の僕にとっては、どうでもよかった。
どうでもいい、だなんて言って。まんまと、恋をした。
恋に変わったということじゃない。僕が、この気持ちを、恋として、表したというだけ。
付き合っている人が居た。
気持ちを表すということを、繰り返すとしたら、それは情だと言えたかもしれないけれど、
情という感情の実感もないままに、それを情と言うことができるのかはわからなかったし、
君が僕を抱きしめる作業や、僕への気持ちを溢れさせるものを拾うことは、胸がぎゅう、と、
千切れるような感覚があって。
好きだった。
それだけは、間違いなかった。好きだった。
誰に言っても、自分に言っても、全く、響かない、この言葉を、僕は僕の中で、何度も。
好きだった。
知らない所に行きたいな 嘘だよ本当はね
ここに居たい ここに居たいんだ
僕は間抜けな顔をしているだろう
泣き虫弱虫でおまけにへっぴりごしで
てろてろおかしいね
僕よりは大きなこの町の固い道の上を
てろてろ自転車で時々パンクもするよ
一日に何回も同じ道を通って
夜には泣きそうになっても
自分の気持ちに整理をつけるということを、しないといけないと思っていたし、
することが、誠実さだと、思い込んで。
でも、ただ素直に、正直に気持ちを受け止めたところで、
僕はどこにも行けないことがわかっていた。
僕は欲張りで、人の気持ちに愚鈍で、そのことを知っていても、理解はしていなくて、
全て欲しかった。自分の望むもの、全て。
でも、全て、って、どこまでだろう。僕の望む全て。
欲しいと思うものが、手に入らない、って、どういうことだろう。
失う。捨てる。無くす。
変わる。変わること。
それは、自己弁護でしかない。
僕は、新しい世界を見たかった。
僕は、刺激が欲しかった。
僕は、知りたかった、吸収したかった、胸打たれたかった。
そうして、古きを捨てることに、決めた。
本当はいつも誰よりも
君の事を思っているんだ
誰にも負けないくらい
君のそばにいたいんだ
街灯の灯りが星の光を消しても
傾いた夕日は本当に素晴らしかったよ
ほんとうに、僕は全ての事象は、半々の確立だと思っていて、
ある、ない、
する、しない、
自分で取捨選択をして、つくり、進んでいくものだと思っていて。
だけど、ない、という言葉でくくれるだろうか。
君が無くなる、って、なんだ。
君は居るのに。
居る。けれど、居ない。居ないんだ。
本当はいつも誰よりも
君の事を思っているんだ
本当はいつも誰よりも
君の事を思っているんだ
本当はいつも誰よりも
君の事を思っているんだ
誰にも負けないくらい
君のそばにいたいんだ
街灯の灯りが星の光を消しても
僕の好きな人は、頭がよくて、鈍くて、敏感で、怖がりで、小さくて、大きくて、深くて、浅はかで、強くて、情けなくて、意志が強くて、優柔不断で、かわいくて、憎たらしくて、僕を好きだ。僕が好きだ。
僕は、新しい世界を見る。
僕は、刺激を得る。
僕は、知る、吸収する、胸打たれる。
僕は、震えているんだ。
この新しい、場所で。
僕よりは多きなこの町の固い道の上を
てろてろ自転車で時々パンクもするけど
ここに居る僕がさわれるもの全部
愛してゆきたいんだ
いつの日か
いつの日か。
愛しい人へ。
PINKLOOP / Flower standing in sound
例えば、一般的に、ドラマや漫画やコントで「ベタやなー」と言われることは、本当にベタ過ぎて、実際やったこともやられたこともない。ベタやなー、だって。人に向けて言ったことなんて、ない。なかったよ。皆無だ。
「子供が出来てもいいようにさー、此処に就職するよ」
「とりあえずは、この辺りに住もうね」
当たり前のように、将来のことを話していた。それが、幸せだとか、確実なものだとか、そんなんじゃない。ただ、話していた。自然と、約束だの、拘束だの、そういうことをしていた。
君が、うつむいて、私に「大好きです」と言ったあの日から、ちょうど2年にはあと3日足りなかった、1年363日のあの日、私達は別れた。終わりはいつでもあっけない、と言えればな。終わりなんて、あやふやで、何の確信もなかった。繋がりも、結果的に何の確信もなかった。君は私を好きだと言いながら突き放し、友達だねと言いながらキスをした。セックスをした。
なんの確信もない。確信って、なんだよ。なんなんだよ。あれほど、あれほど、好きだと、確信していたのに。
別れたい、と、懇願したのは私だ。
別れようね、と、言ったのは君だ。
泣くつもりなんて全く無かったし、それが正しいことだなんて、変に胸はったりして、調子に乗って。でも、君は、泣いた。ぐしゃぐしゃに泣いた。君の涙を見るのは初めてで、たまらなかった。胸が痛い、なんて、そんな言葉でしか言えないのが悔しいくらい、がつん、とやられた。まんまと、涙は出てきて。二人して、うわんうわんうわん、なんて泣いたりして。車の運転ががくがくになって、きゃーきゃー言ったりして。うわんうわんうわん。
Like a morning woken by nightmare
What on earth are you looking at?
Can you see that I'm not nowhere?
What eles do you expect from me?
Anxiety, worry, question, hesitation
All are what we hide
Words given yesterday are words used to be given
Thought come to you the day are in the old days
目覚めの悪い朝のよう
アナタは一体どこを見ているの?
僕はここにいるよ
何が不満なの?
不安、心配、疑問、躊躇い
全て皆が持っているもの
昨日聞いた言葉が遠く昔の言葉に思う
アナタへの想いが昔のことに思う
なんでだろうなあ。
正しかったか、間違っていたか、そんなことは何の意味もなくて、
ただ、選んだ、それだけのことで、
後悔なんて、していないんだ、それでも、なんでだろうなあ。
むちゃくちゃに苦しいんだ。
別れって、そういうもんだろうか。
なんか、気付いたら、山中湖にいて。私達ときたら。
もう、なんていうか、別れていて。既に。そういう状況で。
星を見たんだ。
ベタやな。
あー、付き合ってたら、最高だったのにな。
付き合ってたら、無茶苦茶に抱きしめたのにな。
付き合ってたら、無茶苦茶に、キスしたのにな。
君はそう言ってだけど、「付き合っていない」私達は、最高の気分で、今度は綺麗な涙なんて流したりしちゃって、拭いたりしちゃって、抱きしめたりしちゃって、キスしたりしちゃって。
情けない男女、2人、ボディーボードを砂の上に敷いて、星を見たんだ。
Please let me stay right beside you
Please don't keep my hands apart from you
No other words are necessary
The fact you are here comforts me
どうか側にいさせて
どうか手を離さないで
他には何もいらない
アナタがいるだけで
ねえ、本当に、恋愛っていうのは面倒でさ。でも、最高のもので。ずっとすがっていて、時に投げ出したりして。
でも恋愛という形式より、何よりも、君が好きだった。
君という人が大事だ。
言葉にしても、それは本当に、うやむやで、浮いてしまうけれど、君に居てほしいんだ。
それだけ、というわけにいかないのが、僕ら、男女というものなんでしょうか。
ちくしょう、めんどくさい。めんどうで、すごく、愛しい感情。
時間が経って、朝日なんて、出てきて。
君は、スワンボードを跨ぎながら、桟橋の先まで行って、
せーので、指輪を投げようぜ。
そんなことを言った。
ベタやな。
ロードオブザリングだ。
いっせいの、せ、なんて、またベタベタなことを言いながら、投げた。
そうしたらさ、君はなんだか変な格好で、投げるの、大失敗して。
むちゃくちゃ、手前の方に、どぼん、と不恰好な音をたてて君の指輪が沈んだ。
時間差で、私の指輪、相当遠いところに、沈んだ。
音が聴こえないくらいのところで。
2人して、滑稽な顔をしてただろうな。笑って。
あーあ、湖の底でも、離れ離れ。なんて、君は言って、また、笑った。
朝日は、とても綺麗だった。
ほんとうにほんとうに、綺麗だった。美しかった。
目を閉じても、光が、まっすぐに私に入ってきたんだ。
そして、一瞬、目の前が暗くなったと思ったら、君にキスをされていた。
お互いの最後の捨て台詞。
「キスとか、すんなよ」
「太陽に、キスされたんだよ」
ベッタベタやな。
私は何も願えない。
けれど、思うよ。思い続けるよ。
どうか、君が幸せになりますように。
どうかどうか、私が幸せになりますように。
まだまだ、素直にそう思えるのは、先になりそうだけれどね。
きっといつかこの涙は出なくなって、
そうしたら、会いに行くよ。
私の大好きな、君に。
君の大好きな、私で。
Always I'm affraid that I lose something I treasure
Always I think hard to get away from what I am
It's like a flower standing in sound
いつも大切な何かを失うことを恐れていた
いつも逃げ出そうとしていた
まるで音の中に咲く花のように
愛しい君へ。

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